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学びと気持ちに、そっと寄り添う 神戸セミナー > コラム > 不安とストレスを下げるために ~パニック発作が起き、錠剤を飲めないCさんのケース~
中退・不登校でお悩みの保護者のみなさまへ
神戸セミナー流「お気軽のススメ」
最終更新日:2021年09月21日
中高一貫私立中学で不登校のCさん。なんとか高校に進級したが学校生活が辛くて高1もほぼ登校できず。電車などで不安になるとパニック発作が起きるため、面談に来る際はいつもお母さまが同伴されます。お母さまは「この子は教室に入れない」「この子は勉強が嫌い」「この子は錠剤が飲めない」などの説明をされます。
お母さま同伴だと登校できるので神戸セミナーで学習をスタートすることになりました。
母子同席で初回面談(カウンセリング)を受けに来られました。現在、高校2年生の年齢。高1の終わりで高校を退学されました。中学1年までは成績は学校で上位の方。しかし中2から休みがちになり教室で不安になることがしばしばあったそうです。それ以来、登校し辛くなります。定期試験を別室で受けるなどして何とか高校に上がることができました。しかし教室の授業はほぼ受けられず、成績はどんどん低下。学校に居辛くなり、2年に進級もできず泣く泣く中退することに。語られるのはすべてお母さまでした。
通われていた中高は進学校だったこともあり、ご本人は関西学院大学などの関関同立レベルに行きたいと希望。しかしこの1年間、全く学習できておらずお母さまはそんな「高望み」をしない方が良い、と思われています。しかし、その話をするとご本人は表情が暗くなり、発作が起きやすくなるそうです。
面談では、まず、お母さまに目標・希望と現在の行動とを分けて考えることをお願いしました。今、勉強できておらず、学力が高くないことは事実でしょう。しかし3か月後、半年後も学習ができないかどうかはわかりませんよね。「今すぐたくさん勉強する」ができなくても「今から変化が起きるように工夫してみる」と一緒に考えませんか?と伝えました。今まで伏し目がちで視線が下を向いていたCさんの表情が変化し、
あのぉ…そんなことができるんですか?
と、とても小さな声で話してくれました。初めて聞いたCさんの声でした。
神戸セミナーでは計画を立てないで、できそうなことを試しにやってみるんだよ。できないと決め付けるのではなく、やれるように変化を起こそうと考えるよ、と説明しました。
その後も面談はお母さま同席で実施しました。パニック発作が起きるとクリニックで頓服として渡されている薬を飲むよう言われているそうです。お母さまが「この子は16歳にもなって錠剤が飲めないんです」とおっしゃいました。Cさんは悲しそうに下を向いたまま、小さく頷きました。
そこでこんな質問をしました。
お母さん、その「錠剤が飲めない」について詳しく教えてもらえませんか。今まで飲もうとして飲めないことが何回あったんですか?
と尋ねました。
6か月ほど前に1度、3か月前に1度、つい最近1度など思い出しながら教えていただきました。3回ほどなんですね。「この子は錠剤が飲めない」ではなくて「パニック発作が起きた時に錠剤を飲めないことが3回あった」と言い換えてみましょう。ちなみにお母さまはどんな感じで渡されましたか?ひょっとしてですけど、お母さま自身も慌てたりされましたか?とお尋ねすると、お母さまは、「ああ、確かにそうですね。私も焦って心配して、早く飲みなさいと急かしたと思います」
なるほど、パニックになったときに早く飲みなさいと言われて慌てて飲もうとしたら…それは飲めないのも無理はないと思いますよ。次からは、慌てなくていいよ、ちょっと落ち着こうね、とゆっくり声をかけてあげてそれから飲めば…たぶん飲めるんじゃないかな?そう言うとお母さまは苦笑いされてCさんの方を見ました。Cさんは意外そうな表情でお母さまと目を合わせ少し首を傾けました。
その2週間ほど後に、錠剤を飲もうとしたら問題なく飲めましたとの報告がありました。
学習については「今できることを焦らずにやってみよう」と伝えるとCさんは想定以上に順調に学習を進めることができました。
お母さまは保護者面談で「この勉強量で間に合いますか」「受験生なら志望校合格を目指してもっと勉強した方が良いのではないか?」と尋ねられます。親がいろいろ心配されるのは当然です。しかし、志望校に合格することより優先するのは、日常生活が安全に過ごせること。その為には焦り・不安がないこと。期日を決めていつまでにこれだけ覚えるなどの目標設定は今のCさんにはリスクが高いことを説明しました。
お母さまは、方針を改めて思い出されたように苦笑いされました。考え方はわかっていて、かつ「こういう大学に何としても行かせたい」と考えているわけでもありません。ただ、受験勉強と思うとついつい「もっとやらせないといけない」となってしまいます。「親の焦りが良くないのですね」と、ご自身で語られました。
目指すのは、学力を上げることや関関同立に合格することではなく、笑顔と元気を快復することでありそのために心の余裕が大切だということを再確認しました。
Cさんはお母さまのサポートもあって、順調に学力を伸ばしましたが志望校に合格できるかどうかはまだ微妙な状況でした。
希望通りの志望校を受けたい。2回だけで良い。ダメな場合はもう1年勉強する、という方針を確認しました。入試本番の日はお母さまが付いて行きました。しかし、試験会場には当然一人で入ります。多くの受験生のいる場所で不安が高まり、試験開始前にパニック発作が起きてしまいました。試験監督さんも慌ててちょっとした騒ぎになり、何とか保健室に案内されました。お母さまが部屋に来て「大変だったね」「今日は帰ろうね」と言われても涙が止まりません。もう1回出願していた受験の日は、不安で行くことができませんでした。
その後、もう1年勉強することとなり、不安だった気持ちも3か月ほどで落ち着いてきました。教室の授業にも座席を最後部にして少しずつ出席できるようになりました。
神戸セミナーで実施する模擬試験をみんなと一緒に受ける練習もしました。事前に、不安になったら躊躇せずにすぐに退室しようね、と伝えることで最後まで受けることもできました。
そうして学力も合格ラインを上回って迎えた受験の日。お母さまと一緒に電車で向かう途中に、
やっぱり今日はやめておく。次の駅で降りる
と言い出して途中下車して引き返したとお母さまから電話で報告がありました。それを聞いて、
お母さん、すごい!去年より進歩しましたね!
と伝えたところ、「えっ!去年は会場まで行けたのに、今年は行けなかったんですよ!?」とお母さまは驚かれます。
Cさんは残念な気持ちは少しあるものの、今は落ち着いていられますよね。昨年は不安な気持ちを感じながら「不安でも受けなければならない」と思って訴えることもせずそのまま試験会場に行って大変なことになりました。その失敗を3か月引きずりましたね。今年は不安が高いと思ったら、事前にそれを回避する行動ができましたよね。レジリエンスと言うストレス回避行動を身に付けられたのですよ。と解説しました。お母さまは講演でのレジリエンスのことを思い出されて安心されました。
「社会的に正しい行動」と考えていると、ストレスが高い時も無理をしてダメージを受けてしまいます。レジリエンスとは「本人が困らないように状況に応じて適切に行動する」「社会常識よりも自分のストレスが高い時は優先順位を変える」ということなのです。
Cさんは二日後に入試の日の朝に電話してきました。
先生、今日の入試ですけど、しんどいので休んでも良いですか?どうしましょう?
と言ってきます。
どうしたい?どんな気持ち?
と尋ねると
う~ん…受けに行った方が良いに決まってるけど、今のメンタルだと…受けても無理かも…
よし、じゃあ今日はやめておこうよ。ストレスが上がりそうに感じたら回避だ!と伝えました。「そうですよね~。ありがとうございます!」と明るい声で返事してくれました。
後日、彼女が言うには、この日はやっぱり受験に行ったと報告してくれました。今日は行かない方が良いと言われたら気分が軽くなり、行けたそうです。志望校の関西学院大学に合格して進学されました。
大学進学後は、お母さまの送り迎えなしで充実した大学生活を送っていると聞いています。
神戸セミナー校長・カウンセラー
喜多 徹人Kita Tetsuto
滋賀県立膳所高校時代、硬式野球部1番セカンドで夏の甲子園出場。
(県予選での「5試合で3塁打6本」は今も滋賀大会記録)
駿台予備学校で2浪の後、京都大学法学部へ進学。
学生時代は、母校の野球部のコーチ、家庭教師、学習塾の運営と講師を経験。生徒、保護者、教諭対象の進学講演の講師として年間90回の講演を担当している。趣味は多彩で、混声合唱、クラシック鑑賞、プロ野球観戦、アメフト観戦、テディベア収集、カメラなど。